自らの経験で知識などアップデートされていくごとに、

それらを公開できればと思って本ブログを書いています。

今回紹介するのは、私がある1頭の馬を生まれる前から追いながら学びつつ、

走る馬のヒントを先々皆さんにお伝えできればと思っている現在進行形の経験談です。

 

昨日(9/30)の中山競馬場1R(ダート1200m戦)で、キタノオドリコ号がデビュー3戦目にして勝利をあげました。

隠す必要はありませんね。

本馬は私が母馬を所有して、牧場に預託し、自ら配合を考え、生産した馬です。

きっかけは4年前。前職場に勤めていたときのことです。

海外修行から帰国し、日本での勤務がスタートして半年が経過した時でした。

修行して帰ってきたとはいえ、若者になかなか獣医師としてのチャンスが回ってこない厳しい現実を感じていました。

馬の獣医師と牧場は信頼関係が強く、一人の獣医師と牧場が数十年付き合うというケースが少なくない世界です。

そこに新参者が割って入れるような甘いものではありません。

当時は、夜中12時を超えても、先輩方の治療馬のカルテを見たり、

レントゲン画像を見て必死に勉強していました。

何かきっかけがないと、獣医師としてのチャンスもめぐってこないと考え、

チャンスをものにできる準備をいつでもしておく必要があると思い、

勉強するために1頭の繁殖牝馬を所有できないかと考えました。

自分で馬を所有すると、自らの責任で多くのこと(治療法)にチャレンジして学べると思ったからです。

そして、生産した場合、

その1頭の子馬をある一時点ではなく、線状で長く見つめられると思ったからです。

 

高齢馬をあえて選ぶ

 

ちょうど思い始めていた頃に、血の入れ替えで牧場から出されることになった繁殖牝馬を譲っていただきました。

「本当に所有するの?」

「お金もかかるし、無事に子供産めるかわからないよ。」

「こんな先生初めてだよ。」

「破産してしまうかもしれないよ。」

などなど、周りの牧場さんからいろいろな温かい(?)言葉をいただきました(笑)

というのも、なんとその時21歳という人間でいう80歳を超えている高齢馬だったのです。

しかもお腹の中には子はおらず、翌年交配して、

無事に産んだとしても、23歳。

歳を重ねると受胎能力の衰えや、受胎したとしても難産率が上がるため、

あえて高齢馬を所有する人はほとんどいません。

そして、高齢馬の子は走らないという定説を口にする方もいます。

ですが、私はあえてそこが勉強するにはもってこいだと思い、決断したのです。

21歳の時に譲り受けたキタノオドリコの母馬ブライドウッドは、

その年(2014年)こそ出産していましたが、前年に受胎するのが難しく、

何度も交配の前後で治療した馬でした。

ですので、22歳というさらに年齢を重ねて配合することを考えると、

なかなか難しいことが予想され、獣医師としていろいろ手助けする必要があり、

自分の責任のもといろいろな治療を行い、貴重な経験ができると考えたのです。

ただ、毎月10万円は下らない馬の管理費(馬を牧場に預ける費用やエサ代)や種牡馬の交配料も自分で負担するのは大変でした…(笑)

相当な心配をかけたと思いますが、

自分に投資することを理解してくれた家族には本当に感謝しています。

 

生産者の気持ちを理解する

 

翌年、繁殖シーズンを迎えたブライドウッドは周りの心配をよそに順調に発情がきました。

しかし、3度交配しましたがいずれも受胎には至らず…

予想通りの悩む日々を送りました。

ここでは詳しく説明しませんが、いろいろな治療を行ったのは、

とても大きな財産になりました。

身体の大きい動物なので、使用する薬の量も多く、診療費は想像以上です…。

自ら行う診療業務にお金を払う…何が一番の最善策か本気で考えますよね。

これも自ら馬を所有しないと生産者の気持ちはわかりません。

どんな些細な治療でも真摯に行う気持ちと、生産者のハイリスクハイリターン精神を肌で学びました。

その時の私は必死でしたが、よ~く考えると、過去の自分が未来の自分に送ったエールなので、

当然といえば当然の流れでした。

 

生産・育成の厳しさを肌で感じる

 


(出産3日前のブライドウッド。お腹ははち切れんばかりに大きい。)

4度目の交配で無事に受胎して、翌年(2006年)生まれたのがキタノオドリコです。

こちらの心配をよそに、安産でした。

しかし、生まれてきた子を見た途端、言葉を失いました。

‟小さかった”のです。

 


(生後数時間のキタノオドリコと母のブライドウッド)

測っていませんが、体重は50kgもなさそうでした。

飛節も大きくない…。

生まれてきた身体は小柄でも、飛節が大きければ体が大きくなる可能性が高いので、

私はその部分に注目しています。

父馬はエスポワールシチー、そして母馬も雄大で小さくないので、

どうしてかなぁと初見の時に考えました。

高齢出産が関わっているのか…、それが原因で高齢馬の子は走らないと言われているのか…

いろいろ考えました。

ただ、ずっと視線を送っている私に気付いて、

こちらを見る瞳はとてもきれいでした。美女に成長してほしいと願って成長を見守りました。
(過去の記事参照→*馬も美男美女が良い!!

 

この世に誕生するサラブレッドは、人間が作り出した動物です。

走らないと意味がなく、宿命と言われています。

人間は生産したからには、責任があり、生まれながらの素質・能力を削ることなく、

むしろ伸ばして馬生を送らせてあげることが何より大事なことだと考えています。

生まれた姿を見た瞬間に、この子は甘やかすことなく幼少期からビシバシ鍛えようと考え、

預かってくださっている牧場さんに管理についてリクエストし、

体力・精神力の強化を行うために早めから昼夜放牧を開始しました。
(過去の記事参照→*昼夜放牧の効果 -強く・走る馬を育てる方法ー

 


(生後3ヶ月の姿)

 

すると、みるみるうちに子供ながらに逞しくなっていき、

上の写真を見ていただければわかると思いますが、

生後3ヶ月の時点で、トモ(腰から臀端まで)の筋肉がとても発達し、

生まれた時の小さな姿は嘘のようになりました。

 


(生後4ヶ月)

生後4か月になると、本馬の特徴が馬体、そして普段の行動から見え始めました。

牝馬にもかかわらず顎っぱりが良い
たくさん食べる指標であり、食が減ったりすることで体調の管理に苦労することが予想されないのは良いこと。
(過去の記事参照→*顎っぱりに注目

肢はやや短めだが、首と肩のバランスは良い
両親とは異なり、やや全体のバランスに対して肢が短め。ただ、首には柔らかさが感じられ、肩との連動性も悪くなさそう。
(過去の記事参照→*首の長さが与える影響首と肩の関係

肩の傾斜、トモの容量から大きなストライドが期待できる

後肢からの大きな爆発力(スピードの根源)をより前へ伝えられる身体構造。
(過去の記事参照→*【肩甲骨と上腕骨】連結する両者の間の理想的な角度とは!?
(過去の記事参照→*胸幅と腰幅のバランス

気が強い
純な瞳はしているものの…キツイ鋭い目つきもたまに見え隠れ。
人間がいる中で生きているということはわかっているが、決して優しい気性ではないと牧場さんからも言われていました。

 

他にも、細かいところはまだありますが、

これまで解説してきた内容から、本馬の資質を評価すると上記した内容でした。

 

その後も順調に成長し、1歳になった頃、

さらなる体力・精神力向上を見据えて、

より多頭数で広大な放牧地での管理を進めるために生産牧場から他の牧場に移動しました。

そして、キタノオドリコにとって幸運な流れが動き始めます。

最初に母馬を所有する時点で、子供は自ら所有して地方競馬で走らせることを覚悟して生産しましたが、

それまでの経緯や私の情熱に賛同してくださった現オーナーが引き継いで所有してくださることになったのです。

中央競馬でデビューできることが決まりました。

その後も近くで成長を見届け、1歳の秋に育成牧場に移動しました。

 

馬体のコンフォメーション、そして気性から短い距離、さらに芝よりダートの適性が高い馬だと予想していたので、

デビュー戦が芝の2000mと聞いたときは驚きました(笑)

調教での動きはまずまず良いと聞いていたので、

厩舎の自信の表れだと思って期待して観ていました。

結果は、14頭立ての14着…。

デビュー戦にしても、常に走りづらそうに見え、

途中からレースに参加していない内容でした。

ジョッキーも無理はさせなかったのでしょう。

続く2戦目はダートの1200mとガラリと条件を替え、2着と適性を見せてくれました。

今回の単勝1.8倍の人気にはさすがに驚きましたが、

パドックを観る限り、トモの容量がさらに充実し、他のメンバーより抜きん出ており、

さらに上のクラスに行ける馬だと確信しました。

レースでは、好スタートから先頭を走り、

そのまま押し切り2着馬に7馬身差をつける圧勝でした。

短い距離を走る馬には、ピッチ走法で走る馬が多いですが、

本馬は飛びが大きく、ストライドが大きいのは、

コンフォメーションの表れです。

自分が関わっていることを除いても、将来楽しみな馬が出てきた!と感じています。

このように、生まれからずっと見ていると、教えられることは非常に多いです。

これからも多くの発見があるでしょう。

それらのことを本ブログにて発信していけたらと思ってます。